クロガネ・ジェネシス
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第三章 戦う者達
第24話 猛攻のキャッスルプラント
「さて、それじゃあ、まずは作戦を立てるわよ」
キャッスルプラントの部屋の前。アーネスカはディーエと火乃木に言った。
「敵は巨大よ。効率よく倒すためには、燃えやすいと目される部位に火を放つ以外にないわ。そこで、まず狙うべき部位として、キャッスルプラントの一番上の部位。根や茎より、葉の部分を効率よく燃やすことができれば、自然と炎は燃え広がっていくはず」
「でも、アーネスカ、ボクの魔術じゃあ、あの部屋の天井まで炎は届かないよ?」
「それに、葉に該当する部分が少なければ、それほど燃焼に期待できないかもしれません」
火乃木とディーエが即座に異を唱える。
相手は自然界に存在し得ない巨大な植物。今までの植物に対する常識が通用するとは思えない。
「考えられるわね……」
腕を組むアーネスカ。火乃木はさらに言葉を続ける。
「あと、あのツボミみたいなところから出てきた生き物みたいなの。あれにどう対処する?」
「う〜ん。単純に燃やせばいいってわけでもないからね〜。
アーネスカは首を左右に傾けて考えるジェスチャーをする。
その時、ディーエが口を開いた。
「まずは、あの生きていると思われる生物の方をどうにかしませんか? ツタで攻撃もしてくるみたいですし、安全を確保してから放火に転じた方がいいかもしれません」
「う〜ん」
ディーエの提案はもっともだ。焼き払うにしてもあれだけ巨大だと一筋縄ではいかない。効率よく燃やすことのできる火力が必要になる。
「そうね。まずはキャッスルプラントの攻撃手段を削りましょう! その後なら多少、時間かけても、安全は確保できるでしょうしね。ただ、1つ問題があるわ」
アーネスカはそこで一旦切る。そして火乃木へと視線を移し続きを述べる。
「恐らく、敵の攻撃は早いわ。その場合、魔術の熟練が足りてない火乃木の魔術じゃあ、呪文を唱えている間隙だらけになる可能性もある。その点で言えば火乃木……あんたは戦力にならない可能性があるのよ」
「あ……」
きっぱり戦力外通告されたのがショックだったのか、火乃木は言葉を失う。
アーネスカとてこんなことは言いたくない。しかし、この戦いは命に関わる。下手にぼかして失敗して死ぬなんて事態は避けなければならない。
「ごめん火乃木。こんなことは言いたくないけどさ……」
「あ、ううんいいよ。……事実だから……」
火乃木はなんともやりきれない表情をしている。
「その点では、私も戦力外なのでは?」
ディーエは魔術を習った経験がない。魔術師としては火乃木より未熟なのだ。ディーエがそう疑問に思うのも不思議ではない。
「ディーエさんにはその怪力と鉈があるじゃないですか。キャッスルプラントのツタを切り裂いたり、戦力外とは言い切れない」
「そうですか……」
「火乃木、呪文詠唱なしで発動できる炎系の魔術、何かない?」
呪文の内容を杖が記憶していれば、後は魔力を込めて魔術の名を叫ぶだけで、即座にその魔術を発動できる。それが杖を使った魔術の最大の特徴だ。
「1つだけあるよ……でも、攻撃用じゃない……」
火乃木は言っていいものかと戸惑う。
「言ってみて」
戸惑う火乃木にアーネスカは優しく言い、続きを促した。
「フレア……クリエイト……」
その魔術はこの山を登る時の昼食時に火乃木が火をつけるのに使った魔術だ。
この魔術には複雑な魔術式など必要ない。何回か使っていれば確かめるまでもなく杖が呪文を覚えてくれる。
火乃木自身フレア・クリエイトは数える程度しか使っていない。が、呪文詠唱無しに簡単に発生させられる魔術の代表的ともいえる魔術ゆえに、フレア・クリエイトを挙げたのだ。
炎を発生させられる魔術と言うのはそれだけ簡単でもあるのだ。
「う〜んよりによってそれかぁ〜……」
「うう、ごめん……」
アーネスカと火乃木が2人揃って肩を落とす。
「ならば拙者が火乃木の盾となろう」
そのとき、どこからともなく、忍び装束に身を包んだ進が現れた。
「進さん……。オルトムスはどうなったんですか?」
「すまん。捕らえることは叶わなかった」
進は先の戦いで何があったのかを簡潔にアーネスカに述べた。
「床が抜けて奈落の底か……」
「ああ」
「そうですか。仕方ないですね……」
「そんなことより今の話だが……」
「あ、そうですね」
進は話を戻す。
「少しだけ聞いていたが、火乃木の魔術のタイムラグの問題だな」
「ええ。その通り。盾になるって言うのは?」
「言うまでもなく、火乃木が魔術を唱えている間、拙者が火乃木の盾となり守るということだ。さすれば、大型の魔術の発動もできよう……。そこで、1つ提案があるのだが……」
アーネスカは頷きで返す。
「拙者と火乃木が1箇所に留まり、キャッスルプラントへの炎の点火を、お主ら2人はキャッスルプラントから出てくるあの首を倒す役割としてはどうだ?」
「確かに4人いればその作戦も可能ですね。片方が片方の動向を見守りながら戦えると同時に、それぞれの役割に沿って動けるわけだから無駄がない……OK。その案でいきましょう。だけど、進さんとあたしの役割は交代」
「その根拠は?」
「進さんてさ、この中じゃ一番動き速いと思うのよ」
「ふむ」
「だから、あらゆる角度からキャッスルプラントへ攻撃を仕掛けることができると思うの」
「なるほどな……」
「よし! それじゃあ……」
アーネスカは一息ついて作戦をまとめる。
「あたしと火乃木でキャッスルプラント全体を焼き払うわ。火乃木の使用魔術はサークル・ブレイズが適切だと思う。あたしは火乃木の盾となってその間、キャッスルプラントからの攻撃を防ぐわ」
「うん!」
強い決意を称えて火乃木はコクリと頷いた。
「進さんとディーエさんもあたし達と同様、キャッスルプラントに攻撃を仕掛ける。ただし、ツボミからあの首が出てきたらそれを優先して叩く」
「承知した……」
「分かりました」
「じゃあ、行くわよ!」
アーネスカを先頭に、4人はキャッスルプラントの部屋へ突入した。
初めてこの部屋を訪れたときは、キャッスルプラントの全体を観察する時間がなかった。アーネスカ達は改めて自分達が倒そうとしている存在の大きさに圧倒された。
一体どのように育てたらこんな風になるのか想像もつかない。
部屋の中心に巨大な大木の幹が君臨し、上に行くほどに枝分かれしている点は普通の大木と同じだ。しかし、枝分かれする所より下の部分が普通とは違う。まず無数に穴が開いており、その穴から細長い触手が出入りしている。馬を捕食する際に使った触手はあれで間違いない。さらにその下には3つのツボミがある。そのツボミの中から長い首が伸びて馬を捕食したことは記憶に新しい。
「さあて、火乃木。サークル・ブレイズ、詠唱初めて!」
「うん!」
火乃木は魔術師の杖を構えて、魔術を唱え始める。
「拙者も参る!」
進はクナイを1本取り出し、幹の一部に投げつけた。クナイは幹に突き刺さり動きを止める。
「焔爆陣《えんばくじん》!」
クナイを中心に爆炎が発生し、キャッスルプラントの一部が燃え上がった。同時に幹の一部が吹き飛び、クナイが地面に落ちる。
無論この程度では致命傷になりえない。精々表面がこげた程度で終わる。次なる一手を撃たなければならない。
進はクナイを投げた右手を強い力で引いた。すると、地面に落ちたクナイが進の手元へと戻っていく。細く頑丈な糸を繋いでいるためだ。
クナイが戻ってくると同時に、キャッスルプラントの触手が伸びてきた。触手は進目掛けて一直線に伸びてくる。進は刀を抜き放ち、その触手の一部を切り裂いた。
すると痛みを感じたのか、触手がビクンと跳ね動き、引っ込んで行った。
「ヌオオオオオオ!!」
直後、ディーエの呻《うめ》き声が聞こえた。
見ると、ディーエの胴に触手が巻きつき、ディーエを持ち上げている。
ディーエは自らの鉈を振るい、触手を切り裂いた。進の時と同じように切り裂かれた触手は引っ込み、ディーエはキャッスルプラントの触手から解放された。
「気をつけろ!」
進がディーエの元に駆け寄り言う。
「ええ」
2人は体勢を立て直し、キャッスルプラントを睨みつけた。
キャッスルプラントが次にどう動くのか見ていると、先ほど1本、2本ずつでこちらに向かってきていた触手の本数が一気に増え、同時に進とディーエに襲い掛かる。
「数が多すぎる!」
そう漏らしたのはディーエだ。対照的に進はいたって冷静だ。
進は懐から金属で出来きた小さな十字手裏剣を取り出した。
それを触手が迫りくる方向とはまったく違う方向に投げる。
「なにを?」
ディーエは困惑する。それを無視して、進は次なる魔術を発動させた。
「飛光刃《ひこうじん》!」
投擲《とうてき》された手裏剣が無数の触手へと、その進路を大きく変える。同時に手裏剣が光り、十字と同じ形をした巨大な刃を発生させた。
それはまさに光をまといし巨大な手裏剣であると言えた。
その光を纏った手裏剣が、ディーエと進に迫っていた無数の触手を一瞬で切り裂いた。
ボトボトと切り落とされた触手が地面に落ち、光を纏った十字手裏剣は大きな音を立てて腐食した木の床に突き刺さる。
同時に手裏剣は光を失い、ポトリと金属音を立てて落ちた。
「凄い……」
進の魔術を間近で見て、ディーエは思わずそんな呟きを漏らした。
純粋に凄いと思ったのはアーネスカも同様だった。
普通媒体となる武器などにあらかじめ、魔術発動のためのキーワードを設定することがオリジナル魔術だ。
基本的に1つのキーワードで発動できる魔術は1種類に限定される。
しかし、進が使った魔術は手裏剣の軌道変更と光の刃の発生を同時に行った。
真似しようとして出来るようなものではない。
「魔術師としてのレベル……結構高いわね」
「褒めてくれるのは嬉しいが、今はそれ所ではない」
「そうね……」
「アーネスカ! 出来たよ!」
進とアーネスカの話を遮り、火乃木が呪文詠唱完了を伝える。
「OK! 派手にやっちゃいなさい!」
「サークル・ブレイズ!」
火乃木が唱えていた魔術を発動させた。
大木の周りに炎が発生し、包み込む。
「これで一気に燃え上がってくれればいいんだけど……」
その時、今まで閉じていたツボミが開き、中から赤黒く長い「なにか」の首がその姿を現した。
その首は口の中をもごもごさせて、炎が燃ええているところに向かって、唾液(?)を吐き出した。
大量の唾液を浴びた炎は瞬く間に消え去った。
「甘い考えだったわね……」
不適に笑うアーネスカ。
無論消えた炎は一部でしかない。しかし、このままでは点火した炎が全て消されてしまう。
進はこれを好機とばかりに、走り出した。
「進速弾破《しんそくだんぱ》!」
「なっ!?」
零児が使う移動形魔術。それと同じものを発動させた進に驚きつつ、アーネスカはその背中を目で追う。
壁を登り、一定の高さになったらそれを蹴り、キャッスルプラントの首の真上へと落下する。
その途中、刀を抜き、キャッスルプラントの首に、その刃を突き立てる。
しかし。
「馬鹿な……」
進は息を飲んだ。
突き立てた刃はキャッスルプラントの首に突き刺さるどころか、硬い外皮によって逆に進の刃が削れてしまう。
刃の先端が変に歪んでいるのが分かる。
「なんという固さだ……!」
「進さんどいて!」
「!」
進が飛びのき、代わりにアーネスカの銃口がキャッスルプラントの首に向けられる。
「エクスプロージョン!!」
叫び、引き金を引くアーネスカ。撃った弾丸は3発。それはキャッスルプラントの首に命中し、そのたびに巨大な爆発が起こった。
空気がビリビリと唸り、肌が震える。
爆煙が消え去る。そこにはやはり、傷1つついていないキャッスルプラントの首があった。
「なんて硬さなの……」
驚く間もなくキャッスルプラントの首は、アーネスカ目掛けて大量の唾液を吐き出した。
「キャアアッ!」
その勢いに押され、アーネスカの体は大きく吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「いったぁ〜……。もう! ウィンブルがべちゃべちゃじゃないのよ!」
唾液で汚れたことに腹を立て怒る。しかし、キャッスルプラントにそんなことは関係ない。何せ植物なのだから。
そして怒っている場合ではない。キャッスルプラントには目らしきものは見当たらないが、それでも視覚は存在するのだろう、キャッスルプラントの首は火乃木の方向を見ている。心なしか睨みつけているような気さえする。
「……え?」
火乃木が固まっている。正体不明で巨大な生命体に睨まれたら体がすくんでも無理はない。
火乃木が身を固めている間に、触手が火乃木に迫り、火乃木は捕らえられてしまう。
「うわあああああああああ!!」
『火乃木!』
「火乃木さん!」
3人が叫ぶ。
火乃木は触手によって高々と抱え上げられ、キャッスルプラントの首の手前まで持っていかれる。
「させないわよ!」
アーネスカはすかさず銃をキャッスルプラントの首に向けた。
「エクスプロージョン!」
再び大爆発。外皮の硬い首には対してダメージにならないかもしれない。アーネスカは火乃木がこの怪植物に食い殺されるなんてことだけは絶対に避けたかった。
「うおおおおおおおおお!!」
それはディーエも同じだ。ディーエは渾身の力で鉈を投げ飛ばし、キャッスルプラントの触手を切断した。
落下する火乃木。進は走り、火乃木の落下を自らの手で受け止めた。
「ぬっ!」
「あう!」
その衝撃で進は仰向けに倒れ、火乃木はその上に乗る形になった。
「あ、ありがとう進さん……」
「気にするな……」
火乃木の礼に小さく返事をする進。2人は立ち上がる。
そうこうしているうちに点火した炎は消えてしまった。焦げ臭い臭いが充満するが、キャッスルプラントへのダメージを改めて考えなければならない。
「このままじゃ拉致があかない! みんな! 一旦引くわよ!」
「同感だ……。正面から戦っても、勝てるとは思えん!」
進の同意は火乃木とディーエの同意でもあった。
アーネスカ達はキャッスルプラントを前に背を向け部屋を出た。
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